憂鬱漂流記

出版社に勤める社会人です。憂鬱な私の記録をここに記します。

【短編】第1部『ある男』

こんばんは

以前、お話していた通りに、書き溜めていた小説(短編3部作の内、2作を公開していきます。

ちなみに、3部作の内、現状2部までしか書いていなく(1部は大学1年の時、2部は2年の時)、3部に至ってはほったらかしにしてました。

とりあえず、1部、2部を見直しながら何を書きたかったのかを確認して

3部までやりきってしまおうかと思います。

ちなみにこの大学生の時に、ニーチェの『ツァラトストラ』を読んでいたため、

かなり影響されている部分があると思います。(読んだ人であればかなりの部分、ニーチェのパクリに近いということに気づきます。)

 

それでは1部『ある男』をどうぞ!

 

 ある昼のことだった。せわしなく、キーボートを小刻みにタイピングしながら、まるで機械かのように憑りつかれた男がいた。その様子は、一切の変化などなく、非常に規則的である。タイピング→コーヒー→タバコ→タイピング→コーヒー→タバコ→タイピングと、これらをグルグルと回しているだけであった。誰が、周囲の音など気にしているだろうか。無論、この男には音は聞こえていなかった。これは意図的なものではなく、本当に聞こえていなかったようである。なぜならば、彼はもはやある意味男として、いや、人間としての機能が欠落していたからである。では、なぜそうなったのか。これは聞かないで欲しい。あまりにも悲惨すぎるのだ。今この私の手記を読んでいるあなたは、きっとこの男にほんの少しでも興味があるはずであろう。だからこそ、ここまで読んでいるわけだと思う。しかし、この男に興味を持ったとしても、あなたは何もできないし、何も施すことはできない。ただ、ただ、何もできず、沈黙し、見守っていてほしい。それが彼にとって、または人間として、ひいては全人類にとってのためになるのだから。
 話をもとに戻そう。そうしたわけで、彼は朝早くに起き、コーヒーと身体に必要な栄養食を少し取り、今日もせわしなく動き出す。何を話すでもないし、人と交わるわけでもない。彼はこの周期的作業を夜遅くまで続けるが、休憩などは一切取らない。取りたいとも思わなかったし、取れるとも思わなかったからだ。彼は実にまじめで誠実、かつ温厚な男だった。それのみならず、容姿は端麗、身長も高く、運動もでき、頭も特段優れている方ではなかったが、どちらかといえば良かった。これだけ聞くと、人間的な機能が欠落しているとはとても思えない。どちらかといえば、このポテンシャルに対して、嫉妬する大衆は多いと思う。人はこの世界のうちに無理矢理放り投げ出された瞬間に、人としての運命をある程度、理不尽に決めつけられ、その後一切世間のルールに縛り付けられる。(まれにこれはおかしいルールだと刹那的にしか想起できなくなる。)そうした結果、誕生するのは悲劇的な人間であり、かの有名フリードリヒ・ニーチェが論じた、末人(die Ende)が誕生する。そう、彼も実は没落していった、末人に他ならなかったのである。
 さて、彼は悍ましい、虫唾の走るような、末人であった。あなた達はこの事実に直面し、彼のことを軽蔑するであろうか?それとも、彼を自分のことのように哀れみ、シンパしようとするのであろうか?否、どちらにせよ、私からすれば、どちらも非常に馬鹿げた意見である。彼はこれまで、真っ当な(どんな意見があるにせよ、一般的な)人生を歩んできた。しかし、殺されたのだ。若かりし時は、重荷を全身で耐えるラクダのように人々への目配りをし、頭を悩まし、訳も分からず、前進する。そして、彼は少しづつ様々なことを理解しだすと、次は獲物を狩るライオンのように、熱狂し、ひたすらに前進した。そして最後には彼は生まれ変わった、自由な精神を持つ純粋無垢な幼子に!!彼はやり遂げたのだ、超人としての精神を手にし、、、
 だが、そこまでであった。彼は。誰に殺されたか。はたして、誰であろう?もう一度問おう。あなた方に。ここまで彼の話に付き合ってくださったあなたに、、、
 さて、言おう。私は言おう。彼を殺したのは、誰であったかを。これを聞いて、驚いてはならないし、決して騒ぎ立ててはいけない。なぜなら、それは真実であるし、あなた方は現実に直面しなければならないからである。
 では、彼を殺したのは誰であっただろうか?、、、、、

それはあなた方に他ならない。あなた方が殺したのだ、彼を。あなた方はこれを聞いてどう思うか?きっと、「そんなはずはない。」、「何かの間違いだ。」、ひいては、「何を失礼な」などと、思いもしなかった私への答えにうろたえ、驚愕しているに違いない。身に覚えがないことほど、人間は怒り、自分は間違っていないと抜かす。おお、承知した。だったら証明してやろうではないか。何があったのかを、なぜこの答えに至ったのかを。あなた方は何か明確な答え、道標がないと、納得せず、いつまでも不平を言う。しかし、私には義務がある。これが人類全体への、贈り物であるということを。これに気付かずには、人間はただ破滅するのみであるということを。
 では、何が問題だったのか。確かに証明したい。あなた方が何をやってきたのかということを、、、、(第2部に続く)